ベルツ
……………。

ベルツ
ここは……清憩の広場か……。

ベルツ
この街はいつまで経っても、変わらない。 “奴”に破壊しつくされた、あの時から……

ベルツ
父さん……母さん…… エメル……。

ティリス
あっ、ベルツ! 待って、もう少しだけ話を……!

ベルツ
……………。

ベルツ
あなた方はこの地……セントクリークに ついて、どれだけ知っておられるのですか?

ティリス
え……?

ティリス
魔神がこんな状態にしたってことは、 ルジくんから聞いたけど、

ティリス
それ以前のことは……。

ルジーナ
…………。

ベルツ
……かつてこの辺り一帯は、その名の通り 清流の流れる美しい土地だったんですよ。

ベルツ
そしてこの街……ルーチェスも、 この地域の中心都市として、

ベルツ
小規模ながら 豊かな街として知られていました。

ベルツ
この光景からは 信じられないかもしれませんがね。

ベルツ
街の中心にあるこの場所なんかは、人々の 憩いの場として、いつも賑わってましてね。

ベルツ
休日のお昼なんかには、 屋台も多く出ていました……。

ベルツ
俺と妹は、一緒にいた父と母に 飴細工なんかをよくねだったものです。

ティリス
それって、まさか……。

ベルツ
ええ、ここは……この街は俺が生まれ、 そして育った場所です。

ベルツ
“奴”が…… あの魔神が現れるまでは……ですがね。

メル
…………。

ベルツ
あの日……魔神が現れた時のことは、 今でもよく覚えています。

ベルツ
すべては、突然のことでした。

ベルツ
突如周囲が炎に包まれたかと思ったら、 後はもう爆発と悲鳴……。

ベルツ
巨大なおぞましい何かが動くたびに、

ベルツ
先程まで笑顔で語らっていた人々が 悲鳴を上げて死んでいく……。

ベルツ
幼い俺は、何が起きたか分からず、 ただ呆然とすることしかできませんでした。

ルジーナ
…………。

ベルツ
父と母は俺と妹を連れて 逃げようとしましたが、

ベルツ
その途中、崩れ落ちる瓦礫から 俺たちをかばい、亡くなりました。

ベルツ
その後、俺は妹を連れてあと少しで 郊外というところまで辿り着いたのですが

ベルツ
混乱する人々の波にのまれてしまい、妹とは そこで離ればなれになってしまいました。

ベルツ
妹のことは当時はもちろん…俺が外交官に なった後も、その行方を捜したのですが…

ベルツ
消息はいまだに掴めぬままです。

ベルツ
おそらくは、あの時……。

ティリス
ベルツ……。

ベルツ
何でこんなことをあなた方に話したのか、 わかりますか……?

ベルツ
知っておいて欲しかったのですよ。

ベルツ
俺がなぜラナスや連邦を欺いてまで、 真の召喚の力が欲しかったのか……

ベルツ
故郷を守る強さを欲していたのかを……。

ベルツ
そして、ギャレットとその女…… メルがやろうとしていたことが、

ベルツ
いかに罪深いことであるかということを。

メル
…………。

ベルツ
俺はメルと…… その“人形”とは違います。

ベルツ
彼女を、私に引き渡して頂けますね?

ティリス
で、でも、それは……。

ルジーナ
ハッ……! 何を言い出すかと思えばくだらねえ!!

ルジーナ
やっぱり同じじゃねーかよ!

ルジーナ
過去のことばっか引きずりやがって……。

ルジーナ
失ったモンを埋めるためだけに 生きてんのかよ、テメーは!

ベルツ
お前……。

ルジーナ
なくなっちまったモンはしょーがねぇ。

ルジーナ
何でテメーはそこから 前を向いて生きようとしねーんだよ!?

ベルツ
…………。

ベルツ
ルジーナ……お前とは長い付き合いだが、

ベルツ
お互いに生まれについて話したことは、 あまりなかったな。

ベルツ
お前はあの時のことを 知らないから何とでも言えるのさ。

ベルツ
この街で起きた、地獄を…… あの魔神の恐ろしさを……。

ベルツ
そして、そのせいで大切なものを失った 人々の怒りと悲しみを……。

ルジーナ
フン……。

ルジーナ
…………。

ルジーナ
テメーがねだったっていうこの街の飴細工、 あれは確か4種類の色と味があったよな?

ベルツ
………?

ルジーナ
テメーと違って、俺はねだっただけで オヤジにぶん殴られちまったがな。

ルジーナ
それでも、賑やかなこの街に来る時は、 いつもワクワクしたもんだったよ。

ルジーナ
まあ、俺もあの時は まだガキだったってことだな……。

ベルツ
ルジーナ、お前……何を……?

ルジーナ
……なに、大した事じゃねーよ。

ルジーナ
俺はこの街の出身じゃねーが、 ちょっと離れた山間部に住んでいたのさ。

ルジーナ
そしてテメーと同じように、ガキの時分に 同じようにあの魔神の被害に遭った。

ルジーナ
……それだけの話だ。

ルジーナ
オヤジもオフクロも…… その時に死んじまったがな。

ベルツ
お前……!

ティリス
そんな……! ルジくんも……。

メル
…………。

ルジーナ
ああん、何だその面は? もしかして“可哀想”とか思ってるのか?

ティリス
だって……。

ルジーナ
バカかテメーは!

ルジーナ
さっきも言ったが、 こんなもんは“それだけの話”だ。

ルジーナ
今の俺様にとっては、 何てことはねえ話なんだよ!

ベルツ
俺と同じ地獄を経験しておきながら、 あの苦しみを忘れたというのか……。

ベルツ
バカな……!!

ベルツ
お前は、家族を殺され…… 故郷を滅ぼされて……

ベルツ
何も感じないとでもいうのかっ!?

ルジーナ
………勘違いすんな。 俺だって、忘れちゃいねぇよ。

ルジーナ
忘れられるわけもねえ……。

ルジーナ
ただ……んなことにずっととらわれてたって 時間の無駄だって思うだけだ。

ベルツ
時間の……無駄だと……。

ルジーナ
もちろん、過去のことは過去のこととして、 いつか落とし前はつける。

ルジーナ
だが、それのためだけに生きるなんざ、 もったいねぇ。

ルジーナ
なにせ俺様には溢れ出る才能がある。

ルジーナ
これからのことに有用に使わねぇと 世界の損失ってやつだろ。

ティリス
ルジくんってば……。

ルジーナ
テメーはどうなんだよ、ベルツ。

ルジーナ
未来を見ず、過去にだけ引きずられて 満足なのか……?

ルジーナ
メルとギャレットを連邦の高官どもに 引き渡してラナスの後釜になり、

ルジーナ
また過去を大事に抱え込む生活に戻るのか?

ベルツ
……………。

ティリス
なっ……何!?

メル
…………儀式が……始まった…………。

ルジーナ
チッ……おしゃべりは終わりだ! ギャレットのところへ急ぐぞ!

ルジーナ
魔神なんざ 蘇らせるわけにはいかねえからな。

ティリス
うん!

ベルツ
……………。

ルジーナ
ベルツ…… テメーはどうする。

ルジーナ
ここでリタイアして、 全部俺たちに任せるか?

ベルツ
俺も行くさ……。

ベルツ
お前に何と言われようと、 あの悲劇だけは繰り返させない。

ベルツ
その思いだけは、変わらない……。

ルジーナ
フン………。